不景気と口紅

先日、糸井重里さんが「いつの間に女性は口紅を塗らなくなったのか」ということを書いていらっしゃった。

私もここ何年か、朝ベージュの口紅を一度塗ったらその日いちにち塗り直すということがほとんどない。塗り直すにしても無色かほんのり色づくリップクリームでどうにかするようになった。

思い返してみると、昔は口紅を塗り直す時間を作り出すのがすごくたいへんだった。
そうだ、今思うとすごい色の口紅が流行っていたことを思い出した。

イブサンローランの青みがかったピンクの口紅が流行っていて私も持っていたんだった。
そう書いていたらあの口紅の古いタイプの化粧品らしい匂いと飛行機の中の匂い(職場だったので)をリアルに思い出してきて懐かしくなる。小さなポーチにぎゅうぎゅうに化粧品を入れて持ち歩いていたなあ、みんな。そして小さな筆を使って口紅をくっきりしっかり塗ってた。

もうひとつ思い出した。友達に、「毎日口紅を塗っていたら生涯で何本の口紅を食べたことになるか知ってる?」とあの頃聞かれた。それくらいべったりつけてたっていうことだ。

あの頃は、食事に行ってもお酒を飲みに行っても機会を見つけていちいち口紅を塗り直しに立ち上がらなければならなかったんだ。だから一日何度もトイレに行くことになっていた。今は鏡を見る回数が1日多くても3回くらいだけど、あの頃は何回見ていただろう。

なんか、昔の自分がまるで別人のように思える。「ちょっと化粧室へ」なんて行って化粧を直しに行く、そんなキャラじゃないのに!

それが、いつからかベージュの口紅がはやり始めて、口紅の色が薄いほうが今っぽい化粧に変わっていったんだっけ。

私が仕事を始めたとき、すでに経済はずいぶん悪化していたけれどどこかにバブルのほのかな名残が大衆のメンタルの一部に残っていたような気がする。

昨日Jcrewで買い物をしていたとき、顔の小さな店員さんが髪を後ろでまとめて、赤い口紅がカジュアルな服に映えてすごく素敵だった。

ぼんやりファッション雑誌を眺めているとどうやら、赤い口紅がはやりそうな気がするこのごろ。少し経済が上がってきたのだろうか。それとも長引くばかりの不況で、流行に関係ないトラッドとしての赤い口紅がカムバックしてきたのだろうか。

季節の変わり目は、どうも物欲が増して困る。